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横浜地方裁判所 平成4年(ワ)2756号 判決 1994年10月28日

原告

株式会社アデランス

被告

有限会社アートヘアー

主文

一  被告は、その販売するかつらにつき、別紙標章目録記載一から四までの標章を使用してはならない。

二  被告は、右標章を付したかつら、容器、カタログ及び宣伝用パンフレットを廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成四年九月二六日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。ただし、被告において、金三〇〇〇万円の担保を供するときは、仮執行を免れることができる。

事実

(請求の趣旨)

主文第一項から第四項までと同旨及び仮執行の宣言

(請求原因)

一1  原告は、別紙特許権目録記載の内容及び構成要件の特許権(本件特許権)を保有し、その特許請求の範囲は別紙特許公報記載のとおりである。

2  別紙物件目録記載一及び二のかつら(本件かつら)は、いずれも、A、B、C、D、Eの各構成要件が本件特許権のa、b、c、d、eの各構成要件を充たしている。

3  被告は、昭和六一年以降、平成四年八月までの間、故意又は過失により、本件かつらを製造及び販売し、本件特許権を侵害してきた。

二1  原告は、別紙商標権目録記載1から4までの商標権(本件商標権)を保有している。

2  別紙標章目録記載一から四までの標章(被告標章)は、次のとおり、原告の本件商標権を侵害する。

(一) 被告標章一は、本件商標権1の「かえで」と称呼が同一であり、相互に類似し、被告のかつらは本件商標権1の指定商品に該当する。

(二) 被告標章二は、本件商標権2の「すいれん」と称呼が同一であり、相互に類似し、被告のかつらは本件商標権2の指定商品の頭飾品に該当する。

(三) 被告標章三は、本件商標権3の「フリージア」と同一であり、被告のかつらは、本件商標権3の指定商品の頭飾品に該当する。

(四) 被告標章四は、本件商標権4の「フィーリング」と同一であり、被告のかつらは、本件商標権4の指定商品に該当する。

3  被告は、昭和六一年四月以降、平成四年八月までの間、故意又は過失により、その販売する女性用かつらに被告標章を付し、右かつらに関する広告、パンフレット等に被告標章を付して展示又は頒布するなどし、被告標章を使用して原告の本件商標権を侵害してきた。

三  原告は、被告による本件特許権及び本件商標権の侵害により、左記のとおり、本件特許権につき被告の得た利益額に等しい額の、本件商標権につき実施料相当額の損害を被った。

1  被告は、前記期間中、計約三九億四二〇七万三〇〇〇円(昭和六一年四月から一二月まで一億二七五〇万円、同六二年一億七〇〇〇万円、同六三年五億七五〇〇万円、平成元年七億四五〇〇万円、同二年七億八〇〇〇万円、同三年八億七一〇〇万円、同四年一月から八月まで六億七三五七万三〇〇〇円)の総売上を計上し、本件かつらの販売により、少なくとも二三億六五二四万四〇〇〇円の売上を得た。被告のかつらの販売による利益率は一六パーセントを下らず、被告は、これにより三億七八四三万九〇四〇円の利益を得た。

2  本件商標権の使用に対して通常受ける使用料率は各三パーセントが相当であり、被告は前記売上のうち少なくとも各一パーセントに相当するかつらに被告標章を用いており、原告は、四七三万円相当の実施料を受け得た。

(請求原因に対する認否)

一1  請求原因記載一1の事実は、知らない。

2  同2の事実は、争わない。

3  同3の事実は、否認する。

被告は、本件かつらを製造及び販売してはいない。

二1  同二1の事実は、知らない。

2  同2の事実は、否認する。

本件標章は、いずれも、女性の頭に装着した全頭かつらの髪型を各年の流行に従って様々に創作セットした女性の顔に合わせたスタイルイメージ(ムード)を表す名称(楓、水蓮及びフリージアは平成三年、フィーリングは同二年のもの)で、被告の販売するかつらの製品名ではなく、被告は、これら標章を付したかつらを販売してはいない。

3  同3の事実は、否認する。

三  同三の事実は、いずれも、否認する。

(証拠) 書証目録引用

理由

一  原告が本件特許権を保有していた(平成六年六月存続期間の満了により消滅)ことは、成立に争いのない甲第一及び第六号証により認められる。

二  本件特許権の構成要件は別紙特許権目録記載のとおりであり、本件かつら一及び二は、その構成要件は別紙物件目録記載一及び二のとおりで、それが本件発明の技術的範囲に含まれることは被告の争わないところである。

本件かつら一及び二が被告の経営する店舗において平成四年一月及び二月ころ注文され、同年三月及び四月ころ販売されたものであることは、弁論の全趣旨並びにこれにより成立を認めうる甲第二二、二三、二五、二七及び二八号証により認められる。

被告は、昭和五四年設立され、かつらの製造及び販売をも業としており、同六一年四月の時点においても、かつら(部分、全頭外)の製造及び販売の新聞広告をしており、以後の新聞広告においては、被告の製造及び販売するかつらは、被告の独自の考案による女性用のもので、特許申請中又は特許製品であり、男性かつらメーカー等の他社にはないものであることが標榜されていることが成立に争いのない甲第一四から一六号証までの各一、二、第一八及び一九号証の各一、二、第一七号証により認められる。しかして、被告は、本件かつらに関して取得した特許権の存在については、全く主張立証しない。

以上の事実を総合考慮すると、被告は、遅くも昭和六一年四月以降、本件提訴直前の平成四年八月までの間、本件発明の技術的範囲に含まれるかつらを製造及び販売して本件特許権を侵害してきたものと推認しうる。

三  原告が本件商標権を取得したことは、成立に争いのない甲第二から五号証まで、第七から一〇号証まで、及び第三一号証により認められる。

被告が、被告標章一から四までを付したかつらを製造及び販売し、かつらに関する広告、パンフレット等に右標章を付して展示又は頒布するなどしていることは、前出甲第一四から一六号証までの各一、二、第一七号証、第一八号証の一、二及び第二〇号証により認められる。

被告は、被告標章を付した製品を販売しておらず、被告標章は被告の販売するかつらの製品名でもないなどと主張する。しかしながら、被告標章が、被告の販売するかつらの製品名であるかどうかはともかく、被告の製造及び販売するかつらを特定する呼称として使用されていることは明らかであり、被告主張の事実は、被告がかつらの製造及び販売に当たり、被告標章を使用していると認めるのに妨げとなるものではない。

四  被告標章が本件商標権1から4までと同一か、又は呼称が同一であって相互に類似しており、被告標章の付された被告のかつらが、いずれも本件商標権の指定商品に該当することは、両者の対比並びに被告がかつらの製造及び販売をしている事実から明らかである。したがって、被告標章を使用する行為は、本件商標権を侵害する。

被告が本件商標権を侵害した期間は、それぞれ本件商標権1については平成元年九月三日以降、同2については同三年一月八日以降、同3については同年九月八日以降、同4については同元年七月一日以降、同四年八月までの間であると認められる(前出甲第一四から一六号証までの各一、二、第一八号証の各一、二)。

五  被告による本件特許権及び本件商標権の侵害行為につき、過失があることは、いずれも法律上推定される(特許法一〇三条、商標法三九条)。

六1  前記期間中の本件特許権の侵害行為により原告が受けた損害額は、被告が同期間中に得た利益額に等しいと推定される(特許法一〇二条一項)。

2  被告が昭和六二年から平成三年までの間に得た利益についてみるに、弁論の全趣旨並びにこれにより成立を認めうる甲第二八及び第二九号証によれば、被告は、昭和六二年一億七〇〇〇万円、同六三年五億七五〇〇万円、平成元年七億四五〇〇万円、同二年七億八〇〇〇万円、同三年八億七一〇〇万円の利益を得たと認められ、昭和六一年四月から一二月までの分は、同六二年分の九か月分一億二七五〇万円、平成四年分は前年までの平均伸び率一一六パーセントを基礎に一月から八月までの八か月分六億七三五七万三〇〇〇円と推計され、総計三九億四二〇七万三〇〇〇円の売上を得たと認められ、このうち、本件特許権を侵害する製品の販売によるものは、原告が本件特許権を使用したかつらを販売して得る売上の割合(六〇パーセント)に等しい二三億六五二四万四〇〇〇円、これによる利益は、原告が通常得ている利益率(一六パーセント)と等しい三億七八四三万九〇四〇円と認められる。

3  被告の得た利益の額の認定は、原告の担当者が調査機関から得た調査報告に基づく伝聞によっている。本件において、原告の担当者は、当該調査機関を特定する事実を明らかにしないが、その理由として、本件が特許権の侵害訴訟であることに鑑み、これを明らかすれば、今後の特許権侵害に関して資料を収集することが困難となることをあげる。

本件は、前記のとおり、本件かつらが本件発明の技術的範囲に属することが争いとならず、本件かつらが被告の販売するものであるかどうかのみが争いとなり、右販売の事実が確定されれば、被告の本件特許権の侵害の事実が明らかとなる点において、他の同種の事案に比べ、特異な争い方がされた事案である。これらの事情を踏まえ、本件については、被告に対し、該当期間中の被告の仕入れ高、売上高、総勘定元帳、売上張、得意先元帳、貸借対照表、損益計算書等の帳簿類につき文書提出が命令されたものの、被告が全くこれに応じようとしなかったことは、当裁判所に顕著である。

いやしくも、会社を標榜する被告において、提出を命じられた文書が作成され、保管されていないことはおよそ考え難い。被告の売上額等に関する前記認定に誤りがある場合、命令に従って文書を提出しさえすれば、これを是正することが容易にできる。しかるに、被告が文書の提出を拒むのは、法律専門家である弁護士の適切な助言を得なかったためか、又は文書を提出することによって前記認定の売上額等が正しいか、これを超えることが明らかとなってより高額の損害賠償を請求されるのを回避するのが得策と判断したためかのいずれかしか考え難い。弁護士が裁判所の命令を無視するように助言することは、倫理に反し、また自己のよって立つ基礎を否定するに等しいことであり、およそ資格を有する弁護士が代理する限り、到底考えられないところであり、本件においても、被告が敢えて裁判所の命令を拒むのは、前記認定を否定しえないためか、又は事実が明らかとなってより高額の損害賠償請求を受けるのを避ける目的に出たものと推認するのがより実態に合致しているというべきである。

当裁判所は、被告側に存する右事情をも弁論の全趣旨として考慮し、被告の売上額及び利益額等につき、原告の提示した証拠が必ずしも最適の証拠とはいえないながらも、前記のように認定することとする。

4  よって、被告は、前記期間に得た利益三億七八四三万九〇四〇円を本件特許権の侵害により原告の受けた損害として、賠償すべきである。

七1  被告による本件商標権の侵害行為により原告が被った損害は、その実施料相当額と推定される(商標法三八条二項)。

2  被告の昭和六一年四月から平成四年八月までの間の各年度毎の売上額及びその総計は、前記認定判断のとおりであり、前掲甲第二九及び第三〇号証により、被告の売上額の内被告標章を使用して得たものは、各一パーセントと認められ、また、商標の実施料は売上額の三パーセントと認められる。これによれば、四で認定した期間中の実施料相当額は二三二万三六五一円と算定される。

3  よって、被告は、右二三二万三六五一円を本件商標権の侵害により原告の受けた損害として、賠償すべきである。

八  被告による被告標章の使用は、前記のとおり、本件商標権の侵害に当たるから、被告はその使用を禁止されるべく、また、被告標章を付したかつら、容器、カタログ及び宣伝用パンフレットを廃棄すべきである。

九  原告は、損害賠償として一億円の支払を求め、その内容を特定していないから、前記認定の特許権の侵害による損害額と商標権の損害額とを按分し、被告に対し特許権の侵害による損害として九九三八万九七三八円、商標権の侵害による損害として六一万〇二六二円、計一億円の損害賠償を請求しうると認められる。

(裁判長裁判官 江見弘武 裁判官 尾島明 裁判官 平野哲郎)

特許権目録

特許第〇九八六一五〇号

出願年月日 昭和五一年九月三〇日

出願番号 昭五一―一一七五三一号

出願公告年月日 昭和五四年六月二五日

出願公告番号 昭五四―〇一六七八五号

発明の名称 部分かつら

(構成要件)

a 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体2の外面に多数の毛髪4を植設すると共に内面の任意位置に数個の止着部材3を有してなる部分かつらにおいて、

b 前記止着部材3が反転性能を有する彎曲反転部材5と、

c 該彎曲反転部材5に櫛歯条に形成連設された多数の突片6と、

d 前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7とからなり、

e 各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成としたことを特徴とする部分かつら

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